なんでもありっさブログ

見る・聴く・食べる・歌う、なんでもかんでも!

突然動き出した時間。

それはどんよりとした雲に覆われた日。

 


私は大宮へ向かう電車に乗っていた。

湿度が高く、車内をジトッとさせている。

 


上がらないテンションを紛らすように、私はiPhoneをカバンから取り出す。MUSICのアイコンをタップすると、私の見知ったジャケットの曲が並んでいる。

 


(こんな天気の日は、アレにするかな)

 


そう、なんの前触れもなく、ふと聴きたくなったのだ。アレを。

 


幾重にも重なるハーモニー。

靄がかかったように湿り気を帯びていて

その霧がかった向こう側に

煌めく広大な自然が見えるような…

 


しかし、いくら調べても、

私のライブラリー内ではヒットしない。

 


なんていうグループ名だっけなぁ…

芝生に何人かが座っているようなジャケットだったんだけど。

カバーアルバムなんだけど、なんの曲をカバーしてたんだっけな、、、

How deep is your love 、、じゃないしなぁ。

 


……そうだ!

 


私ははるか昔に投稿した自分の記憶を頼りに、Instagramを遡った。

 


あった!そう!このジャケット!!これ!

 


The Singers Unlimited「The Complete a Capella Sessions」

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https://itunes.apple.com/jp/album/the-complete-a-capella-sessions/804042621

 

 

あれは何年前だろうか。

渋谷の奥の方にあるワインバー、Bar Bossaに行った時だ。

Bar Bossaのオーナー林伸次さんは、文化放送の音楽コーナーにサブレギュラーとして出演してくださっていて、ボサノヴァの話なんかをよくしてくれていた。

ボサノヴァを歌う練習をしていた私は、いつも林さんの話を興味深く聞いていたのだった。

 


林さんのお店に行ってみよう!

渋谷のバーに行くなんてとても勇気のいることだったけど、一度行ってしまえば、その不安は跡形もなくなる。

 


林さんはおしぼりを渡してくれながら、少し笑って「今日もお綺麗ですね」と言ってくれる。褒められ慣れていない私は『またまた~~!林さん、なんにもあげないですよ~』なんてちゃかしていたが、日頃ラジオでいじられ役が多い私にとって、それはなんだか新鮮な感じであった。林さんは褒め上手なのだ。

 


その日は、たしか、すっきりとした美味しい白ワインを出してもらって、飲んでいた記憶がある。

 


「あ、今かかってるこの曲!Both Sides, Nowですよね?誰が歌ってるバージョンですか?」

 


そう私が言うと、店を一人で切り盛りしている林さんはカウンター内で忙しく注文を受けていたけれど、かけていたレコードのジャケットを私の目の前に置いてくれた。

 


『ザ シンガーズ アンリミテッドですよ』

 

 

 

当時、私は自分のライブでこのBoth Sides, Nowを歌うために練習していたのだ。

Joni Mitchellの名曲。

 


でも、それとは全く違う雰囲気をもっていたあの曲。白ワインでほろ酔いの私の頭の中と、バーの中でずっと響いていたのだった。

 


林さんに許可をもらい、

忘れないようにそのジャケットをスマホで写真におさめ、無事帰路に着いた。

 


その後、すぐにiTunesでアルバムを買ったのだが…月日は3、4年ほど流れ…

 

せっかく教えてもらったのに

肝心のアーティスト名と曲名を忘れていた私。

彼らが醸し出す雰囲気とジャケットだけを記憶していたという、なんともお粗末な結果(笑)

 

 

 

それでも、

歌、曲が持つ匂いがしっかり脳内に焼き付いていたのは、なんだかとっても嬉しい。

 


ザ シンガーズ アンリミテッドのBoth Sides, Nowから始まるあのアルバムを聴きながら、どんよりと曇った空と共に うとうと大宮へやってきたのだった。

 

 

 

ある日、SNSで林さんから突然連絡が来て

新しい本を出されたことを知った。

 


「恋はいつもなにげなく始まってなにげなく終わる」

 

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バーを舞台に お客さんがつい、自らの恋を語る、短編恋愛小説だ。


手に取り、さっそく読み始める。

 


そこには 音楽とお酒と恋が ひとつのお話を奏でるように存在していた。

 


バーカウンターの中にいる林さんを想像しながら、お客さんとのやりとりを読み進めるとなんだかニタッと笑いたくなる。

 


林さんはとってもチャーミングなのだ。

 


本の中に登場する 名曲とマスターが作ってくれるお酒は、ターンテーブルにレコードを乗せるように すっと 恋を語らせる。

 


私があの日教えてもらった

ザシンガーズアンリミテッドも

出てくる かも しれない(是非読んでみてほしい →https://www.gentosha.co.jp/book/b11788.html

 


本を読んで、すっかり 気分はバーカウンターの私は…

Everytime we say goodbyeが歌いたくなり、Bar Bossaで林さんが出してくれるとびきりのお酒が飲みたくなった。

 


Bar Bossaで

また新しい音楽とお酒と物語に出会いたい。

 

久々、止まった時間が動き出した気がした。