ふと目が覚めると、夜明け前。
うすいカーテンの向こうはまだ暗くて、少し開けた窓からはまだ夜のにおいがする。
こんなときはだいたいみんな残念な気持ちになるのだけれど、私はちがう。特別な時間が始まるから。
うちのひとが起きないように、パジャマの上にこっそり長いカーディガンを羽織って靴下を履く。玄関までそろりそろりと歩いて、靴のかかとを踏んだまま、ゆっくりゆっくり戸を開ける。
マンションを出ると、外はほのかに明るくなっていて夜明けが始まっていた。私は迷わず向かいの森林公園へ行って、大きなくすのきの前で立ち止まった。
ゆっくりおおきな深呼吸をみっつ。
右手を顔の高さまで挙げてこぶしをつくり、コンコンコンと木をノックする。
くすのきの樹皮は凸凹していてひび割れしているように見えるから、ちょっと痛々しい。
乾いた樹皮に右手中指の関節が触れて、ザラザラとした。
すると、ひび割れした樹皮の向こうが光り始め、ルービックキューブがひとりでに動き出すみたいに樹皮が一斉に動き始める。
ほの暗い公園にまばゆい光が差し込むから手で目を覆っていると、その入り口は開けた。
コケコッコー
どこかでニワトリが鳴いている。
さあ、今から特別な時間。
私だけの図書館「いつものニワトリ」
目の前のおおきなくすのきの中一面に本棚があって、そこにちいさな木の椅子が一脚だけ置いてあった。